たまには毛色を変えて棋書のレビューでも・・・と思いましたが、「レビュー」というほど立派なものは書けないし、本の内容的にも「レビュー」より「感想文」のほうが合っていそうなので、感想文のテイストで書いていこうと思います。

その本というのが9月末に発売された「渡辺明の思考 盤上盤外問答」。将棋ファンから寄せられた質問に渡辺先生が答えていく企画で、質問内容は将棋のことから趣味の競馬、プライベートなことまで様々です。人がどのような価値観を持っていて、どんなことを考えながら日々を過ごしているのか、というのは個人的に惹かれやすいテーマなので、数日前に書店で見かけてすぐに購入を決めました。

最初の質問が「将棋のプロになっていなかったらどんな職業に就いていたと思うか」 というもので、 それに対する回答がひたすら手堅い。将棋でも人生でもひたすら手堅く、「冒険」や「運任せ」などの行動は絶対にしないというのが一貫した方針のようで、いかにも渡辺先生らしいです。 

他にもう一つ印象に残ったのは、どうすれば強くなれるかという話の中で語られていた言葉。要約すると、渡辺先生自信は今の実力があるのは「努力してきたから」だと最近までずっと思っていた。ところが、子供(柊くん)に将棋を教えてみると自分の時のようにすんなりとは上達しない。後になってから、「自分は将棋に向いていたんだ」ということに気付いた・・・というものです。

もちろん努力も大切だ、というニュアンスのことは語られていましたが、「努力さえすればどうにでもなる」というニュアンスにはなっておらず、同じだけの努力をしても才能によって差が出るものなんだ、と。渡辺先生のような立場の方が言うと重みがあるなあと感じました。

・・・と、ここまでは真面目な内容ばかり取りあげましたが、この本の最大のポイントは渡辺先生のギャップ萌えを楽しむところにあると思います。盤上での緻密さと盤外でのおおらかさ。冷静で合理的な将棋観、大人っぽい人生観と、子供っぽく無邪気さのある私生活。そのギャップ。だってあなた、

「僕は論理的な裏づけを大事にしている」みたいなことを(たぶん凛々しい表情で)言い切る人が、自身のぬいぐるみ好きに関する質問になると嬉々としてぬいぐるみ達の名前や性格を説明しだしたり、次の質問に移ったのにぬいぐるみの話を続行してインタビュアー(観戦記者の後藤元気さん)にたしなめられたりしてるわけですよ。何この子可愛い。

最後のほうでは「実戦で使える格言」や「駒の使い方について」など、技術的なテーマも取りあげられています。ただそれがメインテーマというわけではないので、「棋力向上に役立つ本」のカテゴリーには入らないかと思いますが、布団に寝転がりながら気楽に読める一冊です(実際に寝転がりながら読んだ)。