公開中の映画「泣き虫しょったんの奇跡」を観てきました。上映場所や時間など諸々の条件が絡んだ結果、朝5時半に家を出発して片道2時間半ほどのドライブという強行スケジュールに。それでも時間をかけて観に行った甲斐があったと思える内容でした。

少しネタバレありの感想です(長い)。

まずキャスト関連では、将棋映画のお約束と言うべきか、プロの先生も数多く出演されていました。アマ時代の瀬川先生が久保先生から金星を挙げた対局のシーンでは、久保先生本人の対局姿がドアップで見られたので久保ファンは一見の価値ありです。ただプロ編入試験のシーンでは久保先生役が豊川先生、中井先生役が谷口(室谷)先生、高野先生役が屋敷先生になっています。佐藤天彦先生役も別人でしたが誰なのかは把握できず(追記:青嶋先生だったようです)。そんな中で神吉先生は貫録の本人出演。あの雰囲気だけはやはり本人しか出せないということでしょうか。

ストーリーとしては、小学生のしょったん(瀬川先生)がライバルと出会い、それから奨励会への入会と年齢制限による退会、そして将棋の面白さを再認識した後にプロ編入試験へ・・・という流れになっていますが、最も内容が濃く、おそらく時間も一番割かれていたと思われるのが奨励会時代です。このあたりは監督さん自身も奨励会に在籍したことがあるとのことで、やはり思い入れもあるのでしょうしリアリティを感じさせる描写も多かったように思います。

奨励会員同士の関係性というのは不思議なもので、奨励会で盤を挟むと喰うか喰われるかの敵同士なのに、しょったんの部屋にみんなで集まって遊んだりしているシーンも劇中には描かれています。情け容赦なく負かさなければいけない敵でありながら、互いに切磋琢磨するライバルでもあり、厳しい環境の中で共にもがき苦しむ戦友のような側面もあるのでしょう。奨励会を抜けて四段に上がるにはただ将棋の実力だけが必要なのではなく、様々な困難や誘惑(遊びによる現実逃避)と向き合うための人間性も必要なんだろうなと思わされました。

しょったんは勝負師としての甘さはあったものの、同じ奨励会員から慕われるだけの人間性があったし、同時に周りの人にも恵まれていたように見えました。将棋しか取り柄がないしょったんを「しょったんはそのままで十分」と励ました小学校の先生。同い年の良きライバル。奨励会を退会してただ家にいるだけのしょったんを「今はゆっくり休め」と労った父親。そしてプロ編入試験に臨むしょったんを心から応援してくれる多くの人々。

その色んな人たちの想いを背負ってしょったんが編入試験で対局しているシーンは、思わず目が潤んでしまいました(歳とって涙腺が弱くなった疑惑)。究極の個人種目である将棋を、自分のためだけではなく、他の誰かのために指す。かけがえのない、素晴らしいことではないでしょうか。

以前、プロとは何ぞや、みたいな私見を書きましたが、「他人のために将棋を指す」、これもプロとアマの大きな違いなのかもしれないと改めて思いました。現実的な話をすると棋戦を主催しているスポンサーのためという側面もあるでしょうし、家族やファンなどのため・・・というのも多かれ少なかれ、どの先生にもあるはずです。

劇中のしょったんのセリフにもありましたが、多くの人に応援されるというのはプレッシャーになることもあるでしょう。将棋の勝敗に生活が懸かっているプレッシャー、応援されるプレッシャー、そういったものを背負いながら、それでも他人のために将棋を指す、そんな姿に胸を打たれました。