あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお付き合いください。

今回は▲4六銀▲3七桂型の概況を記したいと思います。


まずは例によって簡単なおさらいから。
ざっくりとした分類ですが、▲4六銀▲3七桂は△8五歩型と△9五歩型に分けることが出来ます。
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△8五歩型は攻撃力で優る代わりに先手に穴熊を許し、
△9五歩型はとにかく先手の穴熊だけは阻止するというのがそれぞれの形の趣旨です。

これらのうちここのところ主流となっていたのは△9五歩型でした。
2012年に「矢倉91手組」がちょっとした流行語になりましたが、
これも△9五歩型の攻防における一変化を突き詰めたものです。
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この△3七銀が「矢倉91手組」誕生の元。
こうして飛車を押さえつつ先手の攻め駒責めることができるか、
それとも先手が攻め駒を捌くことができるかという戦いになるわけです。
そして第4図が問題の91手図。
この形は短期間にまとまった局数が指さた結果、先手が良いという結論で一応収まりました。

※これはあくまで私見ですが、△9五歩型の構造的な問題が原因であるような気がしています。
つまり必要経費である△9五歩の一手が僅かに立ち遅れの元となっているのでは、ということです。
△8五歩型では▲2五桂と仕掛けた時には既に△4二銀型となっており
それ故△3三桂と反発して勝負する指し方が出来ますが、
△9五歩型は▲2五桂に△4二銀と1手遅れているわけです。
必ずしも△3三桂型の方が良いわけではないので、
感覚的には半手遅れぐらいのイメージでしょうか。
そのような状態で攻め駒を責めに行くのは僅かに無理があったのかもしれません。
ただし今後の研究で結論が覆される可能性は十分あります。
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さて「矢倉91手組」という有力な手段を失った後手側は困ってしまいました。
ここから後手側の対策が分散していきます。

△9五歩型では自陣に持ち駒の銀を埋める、いわゆる銀冠作戦が指されました。
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▲4六角(▲6八角)△2四歩となると一度崩されかけた矢倉城が銀冠に再生した格好。
こうも徹底抗戦されると先手が攻め切るのも容易ではありませんが
先手側としても一旦攻め駒が捌けている格好であり、
何より後手側はひたすら受けに回り続ける将棋となるので
形勢は大変でも結局先手が勝つ、という将棋が続出しました。
現在ではあまり指されなくなってしまった作戦の一つです。

また冒頭で触れた△8五歩型の実戦が増えたのもこの頃です。
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△8五歩型の場合は先手は穴熊に組み替えます。
ただし▲8八銀などこれ以上固めると後手の仕掛けを誘発してしまうので
この状態で仕掛けてしまうのがセオリーです。
大事なのは堅さではなく遠さ。簡単には詰めろがかからないのが重要なのです。

図は▲3五銀に△同銀とした局面。
ここから▲3五同角が自然に見えますが、スピードアップの▲1五香がこの際の手筋。
△同香▲3五角と進むと1三の地点が受からなくなるので
以下△2五桂▲1一香成△3四歩▲2五歩△1一玉▲1八飛と進みます。
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後手は銀得ですが玉形が不安定。
先手は▲1九香で飛車が成り込める形ですが、△4五歩~△4四玉とされた時どう追うか。 
先手が手を繋げるか、後手が受け切るかという将棋が展開されますが、
後手は全くミスが許されない状況であるのに対して先手は穴熊の玉が遠く
形勢は難解でも実戦的に先手の勝ちやすい将棋と言えそうです。
現在では他に後手の有力な作戦もあり、この将棋も現れなくなりました。 

更に別の工夫も現れます。
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それまで△7三角と引いていたのをあくまで6四に留め、
△4二銀~△3三桂と先に自陣に手をかけてすぐの仕掛けを消しています。

図から▲6五歩△7三角と進みますが、
実は先述の穴熊の将棋では一度7三に引いた角を△6四角と再び出て
▲6五歩△7三角という交換を強要していました。
しかしこの指し方であれば手損が生じず、
その分玉周りに手をかけられるというメリットがあるわけです。

右辺での打開が難しい先手は▲6六銀として手薄な角頭狙いにスイッチします。
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こうなると後手側はゆっくりできません。
図から△4五歩▲同桂△同桂▲同銀△5三桂と進みます。
先手の銀が捕まっていますが、この場合は▲3四銀~▲5五歩と桂も狙える形。
後に▲3五歩~▲3四歩と伸ばす味もあり先手が良いと思われていました。
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ところがここで△4四金~△5五金という活用を編み出したのが行方八段。
桂頭を守りつつ3筋の当たりから避け、△5五金とぶつけていくことで角の活用も図れます。
先手からは
・初志貫徹の▲3五歩~▲3四歩
・桂がいない分薄くなった端を狙う▲1五歩
という2つの攻め筋がありますが、前者は△4三銀打、後者は△1二歩と我慢して
粘り強く先手の攻めを受け止めていく将棋になります。

この指し方で行方八段が白星を重ねたことで「銀損定跡」と呼ばれるようになり、
現在でも指されている一大変化となったわけです。
これもかなり受け身になる指し方ですが、それでも採用されるのは
先手陣が穴熊でないことに加え銀得という現実の駒得があるからでしょうか。
ただし先手の駒の勢いもかなりのものなので銀損でも形勢は難しいというのが実情のようです。


さて、このような後手側が試行錯誤を繰り返す状況が続いていたわけですが
突如新しい、そして有力と思われる手段が現れました。
名人戦第5局で現れたPonanza新手△3七銀です。

このPonanza新手とその影響を受けた現在の▲4六銀▲3七桂について次回記したいと思います。